脊髄性筋萎縮症について
1. 脊髄性筋萎縮症とは
脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy: SMA)とは、脊髄の運動神経細胞(脊髄前角細胞)の病変によって起こる神経原性の筋萎縮症で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と同じ運動ニューロン病の範疇に入る病気です。体幹や四肢の筋力低下、筋萎縮を進行性に示します。小児期に発症するⅠ型:重症型(別名:ウェルドニッヒ・ホフマンWerdnig- Hoffmann病)、Ⅱ型:中間型(別名:デュボビッツDubowitz病)、Ⅲ型:軽症型(別名:クーゲルベルグ・ウェランダーKugelberg- Welander病)と、成人期に発症するⅣ型に分類されます。主に小児期に発症するSMAは第5染色体に病因遺伝子を持つ劣性遺伝性疾患ですが、成人発症のSMA IV型は遺伝子的に複数の成因の混在が考えられます。
2. この病気の原因はわかっているのですか
SMAの原因遺伝子は運動神経細胞生存(survival motor neuron:略してSMN)遺伝子です。第5染色体(5q13という部位)に存在しており、神経細胞アポトーシス抑制蛋白(neuronal apoptosis inhibitory protein:略してNAIP)遺伝子は修飾遺伝子です。SMN遺伝子の近傍には、SMN遺伝子とは5塩基対のみが異なっている遺伝子が存在しています。SMN遺伝子のことをSMN1遺伝子とか、テロメア側にあるのでSMNt遺伝子と、近傍の遺伝子をSMN2遺伝子またはSMNc遺伝子と名づけられています。SMN蛋白は細胞の核に存在し、RNA結合蛋白と反応するものであります。NAIPは昆虫細胞のアポトーシスを抑制する蛋白質と構造が似ているため、神経細胞のアポトーシスを抑制する蛋白質と考えられています。Ⅰ、Ⅱ型の95%にSMN遺伝子欠失が認められ、Ⅲ型の約半数、Ⅳ型の1~2割においてSMN遺伝子変異が認められます。
3. この病気にはどのような治療法がありますか
本症では根本治療はいまだ確立していません。SMAのⅠ型やⅡ型の乳児期に発症する方では、授乳や嚥下が困難なため経管栄養や胃瘻が必要な方がいます。また、呼吸器感染、無気肺を繰り返す症例が多く、予後を大きく左右します。鼻マスク人工換気法(NIPPV)は有効と考えられますが、乳児への使用には多くの困難を伴います。また、筋力にあわせた運動訓練、関節拘縮の予防などのリハビリテーションが必要です。Ⅲ型では歩行可能な状態をなるべく長期に維持できるように、また関節拘縮の予防のためにも、リハビリテーションを行い、装具の使用などを検討し、小児神経医、神経内科医、整形外科医、機能訓練士の連携が必要です。
関連記事はこちら
- アミロイドーシスについて
- 多系統萎縮症 オリーブ橋小脳萎縮症について
- クッシング病について
- クロイツフェルト・ヤコブ病について
- クローン病として
- サルコイドーシスについて
- 多系統萎縮症 シャイ・ドレーガー症候群について
- パーキンソン病として
- ベーチェット病について
- ミトコンドリア病について
- モヤモヤ病(ウィリス動脈輪閉塞症)について
- リンパ脈管筋腫症(LAM)について
- 亜急性硬化性全脳炎について
- 悪性関節リウマチとして
- 黄色靭帯骨化症について
- 下垂体機能低下症について
- 下垂体性TSH分泌異常症について
- 家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)について
- 球脊髄性筋萎縮症について
- 強皮症/皮膚筋炎及び多発性筋炎について
- 筋萎縮性側索硬化症
- 結節性動脈周囲炎・結節性多発動脈炎について
- 顕微鏡的多発血管炎について
- 原発性胆汁性肝硬変について
- 原発性免疫不全症候群について
- 後縦靱帯骨化症として
- 広範脊柱管狭窄症について
- 拘束型心筋症について
- 混合性結合組織病について
- 再生不良性貧血について
- 重症急性膵炎として
- 重症筋無力症(公費対象)について
- 重症多形滲出性紅斑(急性期)について
- 進行性核上性麻痺として
- 脊髄小脳変性症として
- 先端巨大症について
- 全身性エリテマトーデスについて
- 多系統萎縮症について
- 多発性硬化症について
- ADH分泌異常症について
- 大動脈炎症候群について
- 大脳皮質基底核変性症として
- 致死性家族性不眠症について
- 潰瘍性大腸炎について
- 間脳下垂体機能障害
- 天疱瘡として
- 特発性拡張型(うっ血型)心筋症
- 特発性間質性肺炎について
- 特発性血小板減少性紫斑病について
- 特発性大腿骨頭壊死症について
- 難治性肝炎のうち劇症肝炎として
- 膿疱性乾癬について
- 肺動脈性肺高血圧症について
- 肥大型心筋症について
- 表皮水疱症(接合部型及び栄養障害型)について
- 副腎白質ジストロフィーについて
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎について
- 慢性血栓塞栓性肺高血圧症について
- 網膜色素変性症について